「こころの扉を開く」

今日は積んでおいた本を読んでました。

こころの扉を開く―統合失調症の正しい知識と偏見克服プログラム
監訳 日本精神神経学会
こころの扉を開く

統合失調症について、症状・治療法の説明から、地域での偏見・差別をなくすためのプログラム作成の手引きまでを含んだ大変わかりやすく、実践的な本でした。今まで読んだ本の中でも指折りのまとまりの良さがあり、統合失調症を知るためには最適な本だと思います。読者を選ばない逸品だと思います。一般の人や学生から専門家まで誰が読んでも得るものが大きい本だと思います。

そんな本だけに考えさせられる一文が。精神障害に対するスティグマ(偏見)についての説明の中で出てきたものです。123ページから引用します。

 精神障害者のスティグマはどのように統合失調症の症状や経過に影響を与えるのでしょうか。Warnerは、精神障害の診断を受け入れた患者は、そのために内面的な負担を感じて自分自身に無能力や無価値の枠をはめてしまい、いっそう社会的に引きこもり、障害者としての役割を引き受けてしまうことを示しています。その結果、彼らの症状は持続することになり、治療や他人の援助に依存的になります。つまり、自分の障害を洞察することは、かえって不良な転帰に結びつく可能性があるのです(Warner 1974)。
 Warnerの考察は、精神科入院患者の自己-レッテル貼りに関するDohertyの研究によって確認されています。すなわち、精神障害者であることを受容している入院患者は、対象患者の中で改善率が最も低かったのです。一方、自分が精神障害者であることを否定している患者の改善率は比較的よいものでした(Doherty 1975)。Warnerらによる研究もこの結果を支持しています。自分が精神障害者であることを認めている患者は、自尊心が低く、自分の生活をコントロールできないと感じていました。精神障害に対するスティグマを最も強く感じていた者は、自尊心が最も低く、コントロール感覚が最も弱かったのです。この研究からわかるのは、患者が障害をもっていると受容することによる利益を得ることができるのは、自分の生活をコントロールできると感じているときに限るということです。しかし実際にはこのような患者はきわめて稀です。というのは、障害のレッテルを受容することの結果として、コントロールする能力が失われるからです(Warner et al. 1989)。したがって、スティグマは統合失調症の人にとって悪循環を形成します。つまり、障害を受け入れることは、障害に対処するコントロール能力を失うことを意味するのです。

障害の受容は無条件に受容すればいいというものではなく、障害をもっていてもやっていけるという自信と共に受け入れなければいけないということでしょうか。

この「コントロール」については、「当事者研究」や「WRAP」が大きな武器になると思いました。

・・・朝、決まった時間に起きられない自己コントロールができない私なんかはダメダメですね・・・。
みなさんはどうですか?自己コントロールできてますか?

5 comments

  1. m.takeda says:

    >Warnerは、精神障害の診断を受け入れた患者は、そのために内面的な負担を感じて自分自身に無能力や無価値の枠をはめてしまい、いっそう社会的に引きこもり、障害者としての役割を引き受けてしまうことを示しています。

    著者に大変失礼な言い方をすれば、これ、ジョーク論文ですか?私の眼には「統合失調症は完治します」というジョークと同じ系列にしか映りませんが。

    私は、クリストファーS.エイメンソンが著書の中で言っているように、統合失調症は脳の神経細胞が死ぬ病気だと実感していますので、統合失調症の患者が自分を無能力だとか無価値だと感じるのは、「枠をはめるから」ではなく、「脳自体がダメになるから」だと思います。

    自尊心が低い?心理検査でもそう出ていましたし、実際そう感じます。コントロール能力?これが無い今の日本における精神障害者は、閉鎖病棟に送られるのではないのでしょうか?少なくとも閉鎖病棟への入院を経験した者は、再び入院したくないので、多少無理してまでも自らを律することにはことさら努力するようなリハビリを選択するのではないでしょうか?

  2. あさ says:

    >m.takeda さん

    やっぱりなんかひっかかるものがある部分だったのではないかと思います。

    >これ、ジョーク論文ですか?

    1974年の論文だってのが私は引っかかってます。

    >クリストファーS.エイメンソンが著書の中で言っているように

    詳細を知りたいのですがどの本のどこら辺に書いてありますでしょうか?

    >コントロール能力?これが無い今の日本における精神障害者は、閉鎖病棟に送られるのではないのでしょうか?

    これは極論っぽいと思いますが・・・。

    引用文はスティグマに関する内容の中で出てきた文章ですので、一般的には他の要因がからんでくると思われます。

    で、他に興味深かったことが書いてあって、WHOの調査によると開発途上国の方が統合失調症の患者の予後は良いんだそうな。先進国の住民だけ神経細胞が死んでるのかな・・・?それともこの本はまるごとがジョークなのか?日本精神神経学会は笑いを取りに来ているのか?謎ですね。
    こころの扉をひらくp48表6
    「こころの扉を開く」p.48より引用(この表の読み方がいまひとつ分からなかったりしますが・・・)

    1379人の患者が10カ国から選ばれ、2年間追跡したそうです。
    開発途上国では62.7%の患者が2年間の追跡期間中に寛解。先進国では36.8%。
    開発途上国では38.3%の患者が追跡期間中の4分の3の間無症状。先進国では22.3%・・・とのことです。

  3. m.takeda says:

    おはようどざいます。

    >クリストファーS.エイメンソン

    『家族のための精神分裂病入門』のP60です。この本は、罪業妄想は何かの事件に巻き込まれたのではないとか、シンクロニシティは証明できないとか、力動精神医学で統合失調症を治療するのは1950~80年代に流行ったもので、今や旧い治療法であるなど、オカルト的な力動精神医学(=精神分析)的な病の見方から開放してくれます。

    さらに、この本は、『こころの扉を開く』とは逆に、障害を受け入れて(色々諦めなければならないことは辛いことではあるが)、デイケアを始めとするサイコ・ソーシャル・リハビリテーションを受けた人の方が予後が良いとの主張が見受けられます。

  4. あさ says:

    >m.takeda さん

    >『家族のための精神分裂病入門』

    図書館に行って予約してきました。

    こちらも「精神分裂病」という呼称を使ってることからみてしばらく前の本なのでしょうか?

    読んでみて、感想書こうと思います。

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